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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)3088号 判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、一〇〇五万二九九二円及びこれに対する昭和六二年一月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、別紙物件目録記載の土地建物(以下、「本件不動産」という。なお、同目録記載二の建物を「本件建物」という。)を所有していた。

2  原告は、昭和六〇年一〇月二九日被告から金員を借り受けたが(以下「本件借受金」又は「本件貸付金」という。)、その際、担保として、本件不動産について被告に所有権移転請求権仮登記をした。

3  原告は、同六一年五月末ころ不渡を出し、同年六月二日及び同月六日の二回に分け、同月二日の売買を原因として、本件不動産について被告に所有権移転登記(以下「本件移転登記」という。)をした。

4  原告は、昭和六一年一二月一七日被告から立ち退き費用として一〇〇万円の支払を受け、本件建物から退去して被告に対し本件不動産を明け渡した。

5  被告は、昭和六二年一月二〇日本件不動産を石田千治に売却し、同日同人に所有権移転登記をした。

二  原告の主張

1  本件移転登記は仮装の登記である。原告は、被告の不法行為(本件不動産について処分権限を有しないのにこれを売却処分した行為)により、右処分当時の本件不動産の価額四六五〇万円相当の損害を被ったので、被告に対し、同額の損害賠償債権を有する。

2  原告は、被告に対し、昭和六三年六月一七日の本件口頭弁論期日において、右損害賠償債権をもって、被告の原告に対する後記5二の残債権及び6の求償債権合計三六四四万四〇〇八円と対当額で相殺する旨の意思表示をした。

3  そうでないとしても、本件移転登記は譲渡担保類似の契約に基づくものである。したがって、原告は、被告に対し、清算金請求権を有する。

4  ところで、本件借受金は、金額七七二万円、弁済期の定めなく、利息三分五厘の約定であった。

5(一)  原告は、本件借受金について次の支払をした。

〈1〉 昭和六〇年一一月から同六一年五月まで、毎月二八日二八万円宛

〈2〉 同六一年八月三一日及び同年九月三〇日、各三九万八三〇〇円

〈3〉 同年六月六日、一〇〇万円

(二)  利息制限法に従うと、昭和六二年一月二〇日時点の原告の被告に対する本件借受金の残債務額は、五九九万〇三三三円である。

6  被告は、昭和六二年一月二〇日本件不動産を売却した際、株式会社兵庫クレジットサービスに対し、原告の負債三〇四五万三六七五円を代位弁済した。

四  被告の主張

1  本件貸付金は、金額八〇〇万円、弁済期昭和六一年四月二八日、毎月分の利息(月三分三厘)前払の約定であり、原告は、貸付日に八〇〇万円を受領した後、一一月分の利息として二八万円を被告に支払ったのである。

2  昭和六一年六月初めころ、被告と原告との間に次のような売買の合意が成立し、これに基づき、被告は、原告を同行し、本件不動産に担保権を設定していた債権者らに対し原告の債務を弁済した上、本件移転登記を受けた。

(一) 本件不動産を被告が買い受け、本件貸付金の残金及び原告の岩見収(以下「岩見」という。ただし、実際の債権者は清水某であった。)に対する債務の弁済金を売買代金に充てる。

(二) 被告は、原告に対し、昭和六一年一一月末日を期限として本件不動産の買戻しを認める。

3  その後、昭和六一年一二月一七日、原告と被告との間に次の内容の合意が成立し、被告は、同日原告に対し立ち退き費用として一〇〇万円を支払い、本件不動産の明渡しを受けた。

(一) 原告は、被告が本件不動産の所有権を有することを確認し、本件建物から退去する。

(二) 被告は、原告に対し、立ち退き費用として一〇〇万円を支払う。

4  ところが、その後、原告が偽名を使って被告が経営する会社にいやがらせの電話を時々かけてきたため、困り果てた被告は、昭和六二年一月二四日原告に二〇万円を支払い、原告から今後一切何もいわないという念書の差し入れを受けた。

5  石田千治に対する本件不動産の売却価額は四六〇〇万円である。他方、被告が原告に交付した金額、立替払をした金額、本件不動産の売却に要した費用等の金額を合計すると四六六六万余円にのぼる。

五  証拠関係は、記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

第三  判断

一  不法行為の成否

1  昭和六一年六月初めころ、原告と被告との間に本件不動産の売買契約が成立したものと認めるに足りる証拠はない。

むしろ、甲一号証の1、2、二号証、三号証の1ないし6、四号証、五号証の1ないし8、乙一ないし三号証、四号証の1ないし3、五ないし一三号証、一四号証の1、2、一五、一六号証、一七、一八号証の各1、2、証人岩見の証言、原告及び被告各本人尋問の結果を総合すれば、本件移転登記は、被告の原告に対する本件貸付金債権(貸付金額八〇〇万円、弁済期日昭和六一年四月二八日の約定であったことが認められる。)の残債権及び本件不動産を後日売却処分する際に障害となる他の債権者らの債権及び登記手続費用等の諸費用を被告が立替払することによる求償債権の回収を確実にするために、売買を原因として被告に所有名義を移転し、原告が昭和六一年一一月末日までに被告に対し右各債権(以下、合わせて「本件債権」という。)の全額を弁済したときは、いわゆる買戻しとして、原告に登記名義を回復することとし、その間原告は被告に対し毎月本件債権額の金利相当分を支払うこと(前記原告の主張5二〈2〉の金員は右の金利相当分として支払われたものである。)を約定したものであって、一種の譲渡担保として行われたものであったと認めるのが相当である。

2  そして、前掲各証拠によれば、次の事実を認めることができる。

原告は、被告に対し昭和六一年一〇月末日に支払うべき前記金利相当分の支払をしなかったため、同年一一月初めころ、被告から同月末日までに本件債権全額の弁済ができなければ本件不動産を他に売却する旨告げられた。しかし、原告は、右期限までに本件債権の債権額の確認及びその清算について、被告との折衝を西田鵠二及び大橋次夫に依頼した。右両名は、当初右翼団体と関係があるかのようにほのめかして被告を脅しにかかったが、最終的に、右両名の仲介により、原告と被告との間で、被告が原告に対し立ち退き費用として一〇〇万円を支払い、原告は被告が本件不動産の所有権を確定的に取得することを認めて本件建物から退去し、本件不動産を明け渡すことをもって本件債権及び本件不動産に関する一切の債権債務を清算する旨の合意が成立し、同年一二月一七日、右合意に基づき、被告は原告に右一〇〇万円を支払い、原告は本件建物から退去して本件不動産を被告に明け渡した。その後、原告は、同六二年一月二四日、西田鵠二を介して被告から更に解決金として、二〇万円と本件債権に関する書類一切を受領し、被告に対し今後一切何もいわない旨の念書を交付した。

原告本件尋問の結果中右認定に反する部分は採用することができない。

3  右事実によれば、被告が本件不動産を石田千治に売却した時点において、被告が本件不動産の売却処分権を有していたことは明らかである。したがって、被告に右売却処分権がなかったことを前提とする原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

二  清算金請求権の存否

前記一において認定した事実によれば、本件不動産の売却処分に関する清算は、遅くとも昭和六二年一月四日原告が被告から二〇万円と本件債権に関する書類一切を受領し、念書を交付した時点ですべて終了したものと認められる。したがって、被告に清算義務があることを前提とする原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

(裁判官 石川善則)

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